クリニックM&Aの譲渡スキームと留意点
1.はじめに
前回は、クリニックをM&Aで第三者へ譲渡する場合の譲渡金額やのれん代に関する考え方を記載しましたが、売り手と買い手で交渉すべきは、売買金額やのれん代だけではありません。
売買金額が決まったとしても、どのように譲渡の対価を受け取るか(譲渡スキーム)次第で、
税引き後の手取り額が大きく変わってしまうことや、そもそもクリニックの事業形態によってもどのような譲渡スキームが使えるかが異なりますので、せっかく時間をかけて売買金額を買い手と交渉して合意できたとしても、場合によっては、税務上の問題などで売買金額の払い出しができないなどの問題が発生してしまうことがあります。
◆前回の内容はこちら
「クリニックの承継問題とM&A」
https://www.upp-medical.com/column/1964/
2.クリニックの事業形態と譲渡スキーム
クリニックの事業形態は、個人事業、医療法人(持分あり、持分なし)に分かれますが、事業形態別の譲渡スキームと注意点を簡単に記載すると次のようになります。
個人事業の場合
個人事業の場合は、建物や機械設備等の資産を個別に売買することになります。注意点としては、取得から5年以内となる資産の売買の場合には短期譲渡所得となり、5年超の場合と比べて税率が高くなることや、のれん代は雑所得扱いとなり、のれん代が高額となる場合には累進課税で税率が高くなるなどの論点があります。
医療法人の場合
持分あり医療法人であれば、持分の譲渡と役員退職金支払いなどを組み合わせて譲渡対価が支払えるため、比較的柔軟なスキーム設計が可能となります。
持分なし医療法人の場合
一方で持分なし医療法人は、メインスキームが役員退職金支払いのみとなり、柔軟なスキーム設計ができないことから注意しておく必要があります。
特に、純資産が潤沢な場合や譲渡対価(のれん代)が高額となる場合、または法人化後の経過年数が浅い場合などは、役員退職金の法人税法上の適正額を超える可能性が出てくるため、時間をかけて対策を考える必要があります。
3.持分なし法人で留意すべき点
・純資産(内部留保)が潤沢な場合
・積立保険等の隠れ内部留保がある場合
・年間の利益水準に比べて役員報酬額が低い場合
・法人化後の経過年数が浅い場合
4.しっかりとした事前準備を
多くの医療法人では、顧問税理士と打ち合わせをして、院長の引退時には内部留保の現預金を退職金として払い出すように準備していると思いますが、それだけでは十分ではありません。多くの税理士は、担当先のクリニックがM&Aで譲渡する可能性があることまでは通常想定していませんし、もしM&Aの譲渡を想定していたとしても、M&Aの場合には内部留保に加えてのれん代が加算されることまでは想定できていません。
その結果、特に持分なし医療法人では、先ほどの役員退職金の適正額の論点が関係して、M&Aとなった場合に、思ったほど買い手からのれん代が受け取れない、もしくは、買い手に過度な税務リスクを負担させてしまうなどのケースが生じてしまうことになってしまいます。
こういう事態にならないためにも、M&Aを検討する際には、M&Aの専門家と早い時期から相談して、自院の事業形態や経営状況に合わせた譲渡スキームを事前に検討しておく必要があります。
特に持分なし医療法人の場合は、譲渡したいと考えている時期の約2年前から相談して対策をしておくことをオススメ致します。
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「クリニックM&Aナビ」に掲載しております。
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