始業時間前の準備時間は賃金が発生するの?
1.はじめに
「始業時間前の準備の時間や業務延長の際の賃金についてはどうすればいいでしょうか?」というようなご質問をいただくことがあります。
具体的には、「始業時間は9時ですが、8時半に来て、掃除や器具の準備、そして朝礼などがある場合の30分はどうなるのか、またはお昼時間が1時間30分となっているが、実際には午前中の診療が遅れて、きっちり時間が取れていない場合はどうなるのか?」というようなご質問です。
2.そもそも労働時間とは?
労基法上の労働時間とは、「労働者が使用者に労務を提供し、使用者の指揮命令に服している時間」となっています。
従って、始業前の時間に、本人が自主的・自発的に掃除をしたり、器具の準備をしたりしている場合は労働時間とみなされないことになります。
しかし医院が8時半に来るのを強制している場合や暗黙的に指揮命令下にある場合、参加しないと給与の査定の対象になるなど、本人の不利益になる場合は労働時間に該当します。また、朝礼については業務について重要な連絡をすると思います。また、朝礼が任意参加という事業所は少ないと思いますので労働時間とされる可能性がありますが、本当に任意であればこの限りではありません。
よって後者の場合に労使間で訴訟になれば、使用者は未払いの残業代を支払わなければならないリスクが生じます。
3.まずは労働時間の開始・終了は記録しましょう!
タイムカードを導入している医院やクリニックは、来た時と帰るときに打刻をするわけですが、始業時の打刻後に更衣室で談話しているような場合、仕事をしていない時間が労働時間としてカウントされていることになります。
このような実態がある場合、当然、使用者はきちんと仕事を開始した時間から労働時間のカウントをして欲しいと思うでしょう。
そこでお勧めしているのは、タイムカードとは別に、スタッフの方ご自身にて記録表に自己申告で労働時間の開始と終了を記入してもらうという方法です。もちろんタイムカードを一切使わずこの自己申告記録表への記入だけにするという方法でも構いません。
こうすることでスタッフ本人が自主的に認めた労働を開始した時間と終了した時間を記録として残しおくことができます。
4.準備時間や延長時間の対応策について
準備時間や延長時間について賃金未払いと主張されることをご心配の経営者の方は、賃金の支払い方法を変更することを検討されるのも選択肢の一つと言えます。
具体的には、基本給を一本化して支払わないようにするという方法です。
例えば、これまで基本給を「基本給」と「職務手当」という名目の手当に分け、朝早く来た分や昼休みの超過時間などは、その手当によって給料に反映するようにします。
ただし、この「職務手当」が前述した朝の準備や診療延長時の分の給与として法律上認められるためには、就業規則の給与規定に手当の内容をきちんと記載し、この手当は何時間分(個々に異なる場合は雇用契約書に明示)の固定残業であるという旨を明記しておく必要があります。
給与の内訳としては、これまで基本給として18万円支払われていた場合は、15万円の基本給と3万円の職務手当などに分けるということになります。この場合、月間20時間程度を診療時間以外の職務時間とすることを目安に考えると良いでしょう。
この場合、賃金の支払方法を変えただけで、総支給額は変わらないことになります。
5.最後に
給料については明確に基準を設け、使用者と労働者のお互いが納得出来る内容にしておくことが何よりも大切です。
給与規定を変更するというのは非常にデリケートなことで、労使間の信頼関係に影響することですので、最も注意が必要な部分です。
入念な準備としっかりとした説明が必要ですので、まずは社会保険労務士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。
また、万が一訴訟になった場合などに備えて、労使間で会話した内容はきちんと記録し、取り交わした書類・メールなどはしっかりと保管しておきましょう。
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