「利益は出ているのにお金が残らない」と感じたときに知っておきたいキャッシュフローのこと
1.はじめに
担当税理士から、「利益が出ていて順調ですね」と言われているのに、通帳の残高は減る一方。そのようなご経験をお持ちの先生もいらっしゃるかもしれません。
「利益」とは一般的に、「売上」から「経費」を差し引いた残りを言います。イメージ的には売上から経費を差し引けば、それが利益であり、剰余金となりそうですが、実際は「利益=余剰金」とはならないことがほとんどです。なぜなら、お金をもらっていなくても売上を計上しなければならないこともありますし、お金が減ったのに経費とできないことがあるからです。今回はその仕組み(キャッシュフロー)を解説していきます。
2.キャッシュの増減要因
利益≠余剰金とは言え、お金の動きを分析する際は、利益をベースに考えます。利益に様々な要因を加味すると、お金の動きとの一致が見られるようになります。仮に年間の利益が800万円と仮定して、以下に代表的なキャッシュの増減要因をご説明していきます。
①減価償却費
10万円以上の備品の購入については一括で経費に計上することができず(青色申告者の特典で30万円未満の備品は一括で経費に計上できる場合があります)、固定資産に計上しなければなりません。固定資産には「耐用年数」というものがあり、購入額はその年数を用いて経費化しなければなりません。
例えば、300万円の普通車を購入した場合、その300万円は支払った年にすべて経費化することはできず、普通車の耐用年数である6年をかけて経費化することになります。その際に計上するものが減価償却費であり、前述の車を令和3年1月に買ったとしても、その年に経費にできるのは50万円、逆に令和4年以降も令和8年まで毎年50万円の減価償却費を計上することができます。
仮に令和4年の決算において、50万円の減価償却費を計上した上で800万円の利益が出た場合、減価償却費の50万円というお金は令和4年に支払ったものではないことから、800万円の利益+50万円の減価償却費分=850万円(A)がお金としては残るはずです。
したがって、「減価償却費として計上した金額は利益に足し戻す」というのがキャッシュフローの考え方のベースとなります。
②納税
ここで言う納税とは、所得税や住民税など、利益に応じて支払う(経費性のない)税金のことを指します。今回の前提に従って事業の利益を800万円としますと、所得税が約80万円、住民税が約65万円かかります(実際は扶養などの所得控除によって異なります)が、これらの税金は「経費」として取り扱うことができないため、(A)の金額を計算する上で含まれていないことになります。したがって、納税を考慮すると、850万円(A)-80万円-65万円=705万円(B)がこの時点で残ったお金ということになります。
③医業未収入金
新型コロナウイルスの流行を抑えるため、コロナワクチンの積極的な接種が推奨されています。多くの地域でその接種を町のクリニックでも担っており、接種にかかる手間賃は、医師会や市町村などから一括して振り込まれます。仮に令和4年度末の12月にコロナワクチンの接種を行った場合、その収入(仮に65万円)が翌年度に振り込まれるものであったとしても、その収入は令和4年度に計上しなければなりません。
この場合、売上が計上され利益は増えますが、お金としては令和4年中には入ってきていないため、キャッシュフローを考える際は、(B)の金額からこの分を差し引くことになります。したがって、705万円(B)-65万円=640万円(C)が、医業未収入金を考慮した上で残ったお金となります。
④固定資産の購入
新型コロナウイルス対策のため、高性能の空気清浄機を40万円で購入したとします。①でもご説明しましたように、10万円以上の備品は原則として固定資産に該当するため、40万円を一括で経費にすることはできません。経費にすることができないので、単純な利益の計算上は、この40万円の支払いはなかったものとされますが、キャッシュフローを考える上では資金の減少に該当しますので、(C)からこの分を差し引きます。640万円(C)-40万円=600万円(D)が、固定資産の購入を踏まえた上で残ったお金です。
⑤銀行への借入返済
銀行からお金を借りても売上に計上されることはありません。売上や経費に、お金の貸し借りは含まれないからです。したがって、銀行への返済を年間で60万円行っていた場合、この返済は利益計算には含まれていませんので、キャッシュフローの計算にて減少させなければなりません。600万円(D)-60万円=540万円(E)が銀行への返済を踏まえた上で残ったお金となります。
⑥生活費
個人の生活のためのお金は、当然ながら経費にはなりません。利益が800万円と認識していたため、月60万円(年間720万円)の生活費を毎月使っていたとします。しかし⑤までのキャッシュフローの計算において、実際にお金として残っているのは(E)の540万円であるため、720万円の生活費を使っていては、利益の範囲内でやりくりしているとは言えず、180万円の資金の減少を引き起こします。
3.最後に
このように、利益をベースに様々な資金の増減要因を加味しますと、年間の現金の増減と一致します。決算書(確定申告書)には必ず利益についての記載がありますが、キャッシュフローまで含めて上手くいったかどうかを確認するには、専門的な分析が必要となります。「利益は出ているのにお金は増えない」というお悩みがある場合は、顧問税理士や専門家へ分析を依頼してみましょう。
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