医療法人の事業“売却”について
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はじめに
事業の「売却」と聞くと、一般的には株式会社の「売却」を想像しがちですが、医療法人の場合は、会社とは異なり株式を発行していないので第三者に株式譲渡することはできません。
そもそも医療法人は、地域のみなさんの健康に直接関わっているため地域に根差した経営を安定的に続けていくことが命題です。
しかし、最近では、診療報酬の引き下げや診療所の乱立で医療機関を取り巻く環境は大きく変化し、後継者難、相続・事業承継対策といった観点から有効な手段として医療法人の売却を検討されるケースが増えてきています。
それでは、医療法人の事業売却についての基本を押さえておきましょう。
1. 事業売却を検討される主なケース
医療法人の事業売却を検討される方は、下記のようなケースが挙げられます。
① 高齢なのでバトンタッチしたいが後継者がいない。
①のケースは退職後の老後の生活資金を確保したいという経済的欲求、かかりつけの患者さんや従業員を引き継いでほしいという社会的責任のいずれか、あるいはその両方を事業売却により、満たそうとするケース
② 病気や事故など健康状態の理由でリタイアしたい。
③ 大学医局へ戻ることや留学など専門的な研究の道へ戻りたい。
②③は経営者の個人的な理由で事業の継続ができないケース
④ 経営状態が既に悪化していることから大規模医療法人の傘下に入りたい。
⑤ 医師・看護師等の医療専門従事者を新規従業員として確保できない。
④⑤は将来事業を継続していくために現時点の不安から解放されたいケース
この中であなたにも当てはまるようなケースや気になることはありませんか。また、お知り合いの医療法人に想定できるケースもあったかもしれません。
現時点だけでなく、将来的に事業売却を検討せざるを得ない状況も踏まえて、以下の事前のチェックポイントを確認しておきましょう。
2. 事業売却の事前チェックポイント
医療法人の売却は、事業譲渡による売却、出資(持分)譲渡による売却、そして合併による売却の3つの方法が考えられます。
いずれの方法でも医療法人の事業売却を検討される際には、まず、買収者との交渉をスムーズに、かつ、売却後に揉め事が起こらないように、以下の事前チェックポイントをおさえておきましょう。
① 信頼できる専門家への相談と買収者を選ぶ
事業売却を検討するにあたって、まず、その条件交渉や調査対応や契約書締結などの法務・労務・会計・税務といった分野において専門性の高い知識や経験が求められます。そのため、事業売却を検討される際には医療法人に強いM&Aの専門家へ相談される方が良いでしょう。その上で、買収者を専門家と協議を重ねて慎重に選定しましょう。
② 資料・情報の整理や記録を行う
買収候補先から要求されたすべての情報は、嘘偽りなく真摯に提示しなければなりません。そのため過去の決算書類、各種契約書類、人事労務規程類の整理や顧客情報管理、さらには資産評価の際の根拠資料などは事前に整理しておきましょう。また、目視できない従業員の教育方法や各スタッフの特徴などは、買収者にとっては売却後に必要な情報となるため記録・保存しておきましょう。
③ 売却価値が向上する取り組みを行う
M&Aによる事業売却を行う場合、飲食店のように通常の居抜きといった不動産売買における不動産価値とは異なり、事業継続を前提とした投資価値により総合的な評価がなされます。
つまり、事業売却を検討されるにあたっては、売却後にさらに事業としての価値が上がっていく、あるいは継続していくという経営資源としての魅力をアピールしたいところです。
また、買収者が何を望んでいるかという視点に立つと、スタッフ教育が定着しており、豊富な人材をかかえている場合、例えば資格保有者や特殊な技術者などが多いことは、付加価値として高く評価される場合もあります。
つまり、医療法人の場合は、単にモノのみの売買ではなく、ヒト・モノ・カネの要素にそれぞれの付加価値を付けた上での売買金額を提示できる可能性があるのです。
半面、売却のタイミングについては気をつけなければいけません。例えば業績が右肩下がりに差し掛かっている時期や経験豊富なスタッフが退職してしまってスタッフの統制が取れていないタイミングでは、買収候補者から将来の収益に影響を及ぼすリスクがありと評価されてしまうと、価値が下がる場合があります。
売却価値については、事業の実態と事業継続可能性、そして売却タイミングのそれぞれの要素を慎重に見極めることで価値が向上されますので、これらの要素を多面的に専門家と協議し、慎重にかつ速やかな対応を図っていきましょう。
「備えあれば憂いなし」 医療法人の事業売却でも 検討段階に入る前でも事前準備が大切です。専門的な知識を持っているビジネスパートナーの確保から各種資料ファイルの整理、そして資産価値向上のための取り組みを始めることに いまからでも遅いことはありません。
まとめ
以上、医療法人の事業“売却”についてご説明してきましたが、実際の売却準備は多岐に渡り専門的な準備が必要になってきます。
客観的な評価や行政との折衝・手続きなどを見越して、信頼のおける税理士をお選びになって売却準備をスムーズに運びましょう。
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