医療法人化する場合、クリニックの土地・建物はどうなりますか?
1.はじめに
医療法人化する際は、資産の拠出、負債の引継ぎなど様々な判断を行わなければなりませんが、その1つに医院の土地、建物をどのようにするかを検討する必要があります。
本日は医療法人化した際の土地や建物の扱いについて説明いたします。
2.現契約がテナントの場合
現契約(個人事業時の契約)がテナントの場合は、特段大きな変更はありません。結論としては、個人事業の際に契約した内容を引き続き継続することになります。しかし、契約を引き継ぐに際して重要なポイントがあります。その契約が長期間に渡り、確実な賃貸借契約になっているかという点です。
医療法施行規則第30条の34において、「医療法人は、その開設する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院の業務を行うために必要な施設、設備又は資金を有しなければならない」とされています。つまり、医療法人の土地や建物は法人が自己所有することが望ましいということです。しかし、第三者より賃借して開設している医院もあるため、長期に渡り、確実な賃貸借契約であれば、賃借であっても医療法人の設立認可は認められています。
では、「長期」とはどれぐらいの期間か気になるところかと思いますが、これは各都道府県により判断が異なるようですので事前に関係部署に確認をすることをおすすめします。
3.理事長個人が所有する場合
理事長個人が土地・建物を所有している場合ですが、大きく分けて次の2つの選択肢があります。
①法人へ拠出(譲渡)
②理事長所有のまま、法人へ賃貸
このいずれかを選択するにしても注意すべき点があります。それは取引金額が近隣相場と比較して著しく高額になっていないかという点です。理事長個人に有利な譲渡価額、賃料設定となった場合、医療法上の剰余金配当禁止規定に抵触する恐れがあります。また、税務上も近隣相場と比較して高額な賃料である場合、経費として認められない恐れがあります。
なお、設立申請時点ではその取引金額が適正なことを証明するために、不動産鑑定士や不動産会社作成の査定書の提出を求められることがありますので、事前に各都道府県の関係部署へ相談することをおすすめします。
では、①と②どちらが有利かという問題ですが、一概にどちらが有利かとは言い切れません。それぞれにメリット、デメリットがあります。
①法人へ拠出(譲渡)した場合
<メリット>
・土地・建物の査定額と同等の借入金については法人への引継ぎが可能なため、個人名義の借入金を減らすことができ、借入金保障の生命保険料の負担軽減ができる。
・持ち分なしの法人の場合、将来において理事長個人の相続財産が減ることになり、相続税負担が軽減される。
<デメリット>
・譲渡価額次第で譲渡所得が発生し、所得税の納税が発生する場合がある。
・個人事業として消費税課税事業者であった場合は、建物の譲渡に関して消費税の納税が発生する。
・不動産取得税が発生する。
・不動産の名義変更諸費用(登録免許税、司法書士手数料)が発生する。
②理事長個人所有のまま、法人へ賃貸
<メリット>
・役員報酬の他に不動産賃料収入を得られる。
・設立時点の納税資金支出が①と比較して少ない
(譲渡に関する所得税、消費税、不動産取得税の負担がない)。
・①と異なり、不動産名義変更諸費用がかからない。
<デメリット>
・賃料収入は不動産所得として毎年の申告が必要(税理士報酬が毎年発生)。
・土地、建物購入時の借入金は個人に残り、その後の建物の修繕費負担も個人負担となる。
・理事長個人の財産として残るため、将来の相続税負担が大きくなる可能性がある。
4.最後に
このようにそれぞれにメリット、デメリットがあり、先生方の置かれている状況次第でどちらが有利か不利かは変わってきます。短期的な目線だけでなく、長期的な目線も含め、どちらを選択するか法人設立前にシミュレーションを行うことをお勧めします。
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