「正しい再生医療」を世界に普及する―Tenjin Toya Clinic

この記事は、アップパートナーズグループが発行する「季刊CMS」20号(2026年3月10日発行)で掲載されたものを転載しております。
Tenjin Toya Clinicは整形外科・リハビリテーション科と皮膚科・美容皮膚科を併設したクリニックです。最大の特徴は、整形外科で取り組む再生医療。院長の遠矢政和先生、副院長の遠矢麻衣子先生にお話を伺いました。

Tenjin Toya Clinic 院長
遠矢 政和
Tenjin Toya Clinic 院長。医学博士。2012年、九州大学医学部を卒業。九州大学医学部附属病院での勤務やスタンフォード大学整形外科への留学などを経て、2025年7月に開院。趣味はゴルフ。

Tenjin Toya Clinic 副院長
遠矢 麻衣子
Tenjin Toya Clinic 副院長。佐賀大学医学部卒。九州中央病院 九州大学病院などの皮膚科、福岡市内の複数の美容皮膚科クリニックでの勤務を経て、2025年7月に開院。趣味はBTSの推し活。
インタビュアー

税理士法人アップパートナーズ 代表社員・税理士
菅 拓摩
税理士法人アップパートナーズ 代表社員。税理士。1973年生まれ。会計事務所での勤務を経て、2003年に開業。2006年、税理士法人へ移行。
地域の老若男女から愛される存在
菅:本日は福岡市中央区天神のTenjin Toya Clinicで院長を務める遠矢政和先生、そして奥様であり副院長を務める遠矢麻衣子先生にお話を伺います。まずは院長のご経歴をお聞かせください。
遠矢 政和(以下、政和):私は鹿児島県の生まれで小中学校は地元の公立に、高校は私立のラ・サールに進学しました。その後、九州大学医学部に入学し、九州大学の整形外科に入局しています。
菅:ドクターを志したきっかけを教えてください。
政和:私の祖父は歯科を開業し、父が二代目を継ぎました。父から「クリニックを継げ」と言われたことはないのですが、結果的に私を含めた三兄弟はすべて医師・歯科医となり、医療がとても身近な環境で育ちました。しかし、私は幼少期に医師に特別な憧れを抱いていたわけでもなく、そもそもは水泳選手を目指していたんです。後にオリンピックに出場することになる選手と一緒に合宿するなど、真剣に水泳に取り組んでいました。ところが、あるときに「日本では水泳選手のプロ制度はないので、稼ぐのは難しい」と察しまして、手に職をつけながら水泳を続けていこうと決断したんです。 水泳は怪我の少ないスポーツですが、それでも整形外科を受診する回数はそれなりにありました。そして、その整形外科の先生が、私にはとても楽しく生きているように見えたのです。また、患者さんは目に見えてよくなっていきますし、地域の老若男女から愛されている姿に憧れましたね。そこで、整形外科医になろうと医学部に進んだのです。


「正しい再生医療」を普及する
菅:2025年7月にこのクリニックを開院されましたが、まずは勤務医時代の取り組みについてお聞かせいただけますか?
政和:大学病院や市中の中核病院の整形外科にいらっしゃる患者さんは、ほとんどが手術を目的に紹介された方です。もちろん手術はやりがいのある仕事でしたが、術後の回復期リハビリは他の病院やクリニックで行いますので、どのような経過をたどっているのかは常に気になっていました。 クリニックでの外来診療のお手伝いもしていたのですが、実際に手術が不可避と思われる患者さんは実は1割にも満たないんです。「手術ではなく何かよい治療法はありませんか?」と尋ねられる機会も多く、その中間的な需要を直接感じていましたね。
菅:手術以外の領域へのニーズを感じたことが、開業につながったのでしょうか?
政和:いえ、そもそも「地域に密着したクリニックの整形外科医」に憧れていましたので、いずれは開業するつもりでした。「手術以外の領域への需要」は、まず大学院での研究につながっていきましたね。
菅:どのような研究をされたのでしょうか?
政和:私の専門は関節を構成する軟骨と滑膜、そして骨代謝です。「手術を避けたい人の役に立つ新しい取り組みができないか」という思いで、変形性関節症の新しい治療薬に対する研究開発を始めました。 当初は薬の開発から始まった研究でしたが、次第に幹細胞治療やPRP療法が世の中に登場してきます。私は「手術以外の選択肢」を模索していたわけですので、幹細胞治療やPRP療法についても同時に研究を進めていきました。医学博士を取得した後、2021年にはスタンフォード大学整形外科に留学をさせていただき、そこのラボでは幹細胞治療の研究を行いました。
菅:ただ、日本では自由診療で提供されている「再生医療」に対して、ネガティブなイメージを持つ方も少なくありませんよね。率直に言えば医学的根拠が弱い治療も散見される印象です。
政和:とにかく「注射をして終わり」というビジネスありきで、広がってしまった側面があることは否定できないと思います。現在はさまざまな研究により、幹細胞治療やPRP療法をどのような病態に活用すべきかが明らかになってきています。適応の判断はもちろん大切ですが、「注射をして終わり」ではなく、さまざまな治療と併用することでさらなる効果も期待できます。私は「エビデンスに基づいた再生医療」を正しく広め、その意義を九州から世界に発信していく立場を目指して、このクリニックを開院した次第です。
潜在患者は想定以上
菅:私自身も約30年ヘルニアを患っていて、手術経験もあるのですが、今現在は手術をするほど重度ではありません。ただ、手術以外にできることは限られていますし、その選択肢が増えるのは一患者としてうれしく感じますね。
政和:多くの方が整形外科に「飲み薬、湿布、リハビリ等をして、それより重ければ手術」というイメージを持っていると思います。再生医療は「手術を避けたい」患者さんはもちろん、「手術になることを防ぎたい」患者さんにとってもよい選択肢となります。組織修復を促して関節などの構造を維持する作用が期待できますが、症状がそれほど悪くない早期のケースの方が治療効果を発揮しやすく、予防医療としての可能性もあると考えています。このように「自分の関節、体でなるべく健康に過ごしたい」方にもこのような選択肢があることをどんどん認知いただければいいなと思います。
菅:私たちがご支援している整形外科医の皆様も、本当にさまざまな試行錯誤をされていらっしゃいます。この領域への関心を持つ先生がますます増えていきそうですね。
政和:現在は患者さんもAIを活用するなど、とても熱心に勉強される方が増えています。私たちも専門家として、正しい知識で患者さんを導いていくことがとても重要になると感じています。
菅:開院されて取材時には約半年が経過していますが、患者さんから一定の反応は感じていらっしゃいますか?
政和:「症状が辛くて、この先どうしてよいかわからない」「○○という民間療法を含む色々な治療を試したけど変化がなかった」というような患者さんが、インターネットで調べて見つけて来院してくださいます。そのような患者さんは私たちが獲得したいと考えていた層なのですが、実際にやはり相当数いらっしゃるのだと手応えを感じています。理学療法士と連携してそのような患者さんにアプローチしているのですが、既に「症状が改善しました」という声を多くいただいていて、継続していければと思います。
菅:再生医療の外来も順調なのでしょうか?
政和:少しずつですが着実に、再生医療を望まれる患者さんもいらっしゃっています。まだ短期の成績のみですが、満足度も高く、患者さんの症状に適した再生医療を提供できている感覚はあるのですが、きちんとデータとして蓄積し、より多くの患者さんに貢献できるようにしていきたいですね。
皮膚科医を目指した原点
菅:続いて院長の奥様でもある副院長の足跡を教えてください。
遠矢麻衣子(以下、麻衣子):私は大分県の出身です。小中高は公立の学校に通い、佐賀大学医学部に進学しました。夫と出会ったのは九州中央病院に勤務していた頃でした。実は私の父も歯科医でして、似た境遇で育ったので話も合ったのだと思います。
菅:副院長はこのクリニックで皮膚科・美容皮膚科を担当されていますが、皮膚科医を目指したきっかけについてお聞かせください。
麻衣子:小学3年生の頃には、皮膚科医になると決意していた記憶があります。私は生まれつきのアザがありまして、それが見える場所だったので「どうしたの?」と頻繁に聞かれていたんです。子供ながらにそれがとても嫌で「どうにか消したい」と悩んでいました。もちろん改善しないのですが「日光に当てれば消えるかも?」と考え、試したりしていましたね。また、思春期になるとニキビにも悩まされ、皮膚科に通っていた時期もありました。このような経験が皮膚科医を目指した原点です。 ニキビ治療の通院などをするうちに美容皮膚科の存在も知ることになり、大学生の頃には将来的に美容皮膚科に取り組むことも視野に入れていました。ただし、皮膚科学を十分に理解した上で美容の道へ進むべきであると考え、九州大学病院の皮膚科に入局いたしました。
菅:実際に臨床をスタートしてからの感想はいかがでしたか?
麻衣子:ついに夢が叶った、と非常にうれしかったです。昔から皮膚に対して人並みならぬ強い関心がありましたので、実際に入局してからの仕事はとても楽しかったですね。皮膚科の患者さんは症状の改善がとてもわかりやすいんです。目に見えて患者さんがよくなっていくのも、皮膚科に楽しさを感じる大きな理由だと思います。

2科併設で患者さんのニーズに応える
菅:開院にあたって整形外科のみにするか、皮膚科・美容皮膚科を併設するかを熟考されたそうですね。
政和:やはり、初期投資が大きくなるので悩みました。整形外科にはレントゲンや骨密度測定器などが必要ですし、そこにさらに皮膚科・美容皮膚科に用いる機器を揃えるとなると、どうしても大きな投資になります。
菅:決断した決め手を教えてください。
政和:整形外科と皮膚科の双方が、全身の幅広い疾患を領域としており、かつ外来で受診することが非常に多い科だと思います。せっかく夫婦で同じ敷地内で提供できるのだから「1箇所で2科診てもらえる」という需要を掘り起こすことを狙ってみようと決断した次第です。
菅:実際に2つの科を受診される方もいらっしゃいますか?
政和:幸い「整形外科と皮膚科に別々に通っていたけど、ここは一緒に診てもらえていいね」と言ってくださる方が徐々に増えてきました。地下鉄の駅からすぐという立地のよさに助けられているとは思いますが、認知していただければきっと通院のしやすさをご評価いただけると思っています。
菅:ご夫婦で同じ場所で働かれることについてはどう感じていますか?
政和:ずっと顔を合わせることになるのはお互いに大変です(笑)。それでも整形外科なのか皮膚科なのか曖昧な症例の際に、パッと相談することができるなどのメリットももちろん感じていますね。
「PRP」と「PRGF」の違いって?
菅:院長の取り組む再生医療の具体的な内容についてもお聞かせください。例えばPRGF療法の提供は貴クリニックの特徴のひとつだと思いますが、PRP療法とは何が異なるのですか?
政和:まず、PRPは「Platelet-Rich Plasma」の略称です。これは「血小板を多く含んだ血漿」を意味するのですが、ポイントとなるのが血小板に含まれるさまざまな「成長因子」という物質です。その成長因子が組織修復を促し治療に役立つので、「血小板がリッチな血漿」を治療に活用するわけです。 ただし、一口にPRP療法と言っても、実際の内容は非常に多岐にわたります。白血球の割合などさまざまな要因がありますが、例えば「患者さんによってはそもそも血小板が少ない」ということもありますし、血小板の数や質によって治療にムラが発生することは想像していただけるかと思います。 PRGF療法は、PRP療法の一種ではありますが、その点にアプローチしているのが特徴だといえます。先ほど申し上げた通り、損傷した軟骨・靭帯・腱などの組織修復に寄与するのは「成長因子」です。PRGFはスペイン語で「Plasma Rich in Growth Factors」の略で、「成長因子を多く含んだ血漿」を意味します。
九州で唯一のMFAT治療

菅:つまり、患者さんによる血小板の数や質にあまり左右されず、成長因子そのものにフォーカスした治療なのですね。その他にも日本ではかなり珍しいMFATという治療も開始されているそうですね。
政和:MFAT治療は「細胞培養を行わない再生医療」です。あくまでイメージではありますが「幹細胞治療とPRP療法の中間」と捉えてもらうとわかりやすいと思います。2026年1月現在、日本で正式に提供しているのはまだ4施設のみで、九州地方では私たちのみとなっています。 そのMFAT治療について説明する前に、幹細胞治療について簡単にお話しさせてください。まず培養幹細胞治療では、患者さんの、例えばお腹の脂肪細胞を採取して培養し、幹細胞という成分を増やします。そして、その増やした脂肪幹細胞を関節などの組織のなかに注入することで、組織修復を促す治療です。PRP療法と比較すると、より高い修復効果が期待されると報告されています。
菅:PRP療法のポイントは血小板に由来した非常に微細な成長因子でした。幹細胞治療は「細胞」を扱うわけですので、当然ながらより大きな物質にアプローチしていることになりますよね。また、培養というプロセスがある点も非常に大きな差となりますね。
政和:おっしゃる通りです。その2つの中間としてMFAT治療をイメージしてもらえればと思います。つまり、MFAT治療は「培養はしないが、大きな物質に焦点を当てている治療」なのです。 MFATは「Micro-Fragmented Adipose Tissue」の略で「微小細断脂肪組織片」を意味します。患者さんから採取した脂肪細胞は培養したり、化学処理をしたりはしません。専用のキットで細断してMFATを作成します。そのように「微小化された脂肪組織」には脂肪幹細胞だけではなく、さまざまな細胞や組織が含まれます。これらの細胞の集合体が組織の修復や保護に適したさまざまな物質が含まれます。MFAT治療は単一の細胞ではなくこの脂肪組織の集合体を利用するのです。 以前は「1つの遺伝子をターゲットにした研究」にトレンドがありました。ただ現在は「遺伝子同士の連携」がより重要視されており、「1つの遺伝子」ではなく「組織全体」に注目すべきであるという研究の流れに回帰してきています。私はMFAT治療もまさにこの考え方に合致していると考えています。研究の実績も少しずつ積み重なってきていますので、まだ世間への認知度は低いものの一層の浸透を期待しています。
再生医療の可能性
菅:詳しいご説明をありがとうございます。ところで、私たち会計事務所をどのような存在だと感じていらっしゃいますか?
政和:勤務医時代には税務・会計を意識するのは、年に一度の確定申告のタイミングだけでした。しかしながら、いざ自分で開院するとなると「銀行に融資を申し込んで資金を調達する」「具体的な資金繰りを考える」「経費の考え方を理解する」など、とても1人では対応できないさまざまな判断を迫られます。アップパートナーズの皆様には、そのような場面を本当に手厚くサポートいただけていると感じています。臨床や研究など本来の専門領域に集中できる環境があるのは、このご支援のおかげに他なりません。とても心強く、非常に感謝しています。
菅:最後に読者へメッセージをお願いいたします。
政和:「再生医療なんて・・・・・・。」という考えを持たれている先生方も少なくないと思います。繰り返しになりますが、それは日本における再生医療がビジネスとして先行して発展してしまった弊害です。しかしながら、医学の研究に基づいた正しい再生医療は患者さんの需要を満たし、大きな効果をもたらすことができると思います。ドクターの皆様は「まだ手術するほど重くない」「患者さんが頑なに手術は望まないけど、そうなるとできることがない」といった局面を経験したことが多々あると思います。そういった場合には、是非私たちに患者さんのお話を聞かせていただくことだけでも一考いただければうれしいです。実際に既に他のクリニックや病院からのご紹介で、連携して治療し、リハビリに取り組み、実績も出てきています。診療連携ですね。エビデンスに基づいた再生医療の持つ可能性をドクターの皆様にも広く知っていただければ大変うれしく思います。
菅:本日は貴重なお話をありがとうございました。今後の益々の発展、地域への更なる貢献を祈念しています。
Tenjin Toya Clinic
• 〒810-0004 福岡市中央区渡辺通5-24-32 FPG links TENJIN MINAMI 5F
• 診療時間:AM 9:30〜13:00 (最終受付12:30)、PM 14:00〜17:30 (最終受付17:00)
• 休診:土曜、日曜、祝日 (振替診療日あり)
※皮膚科・美容皮膚科は月曜午前、木曜終日休診
