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クリニックの譲渡価格、実はこうして決まる

  • #事業承継
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引退後のクリニックをどうするか——。後継者がいない、子どもは別の道を歩んでいる、体力的にそろそろ限界が近づいてきた。そんな悩みを抱えながらも、「まさか自分のクリニックが売れるはずない」と、M&Aの選択肢を諦めているドクターは少なくない。

実際のところ、クリニックのM&Aはどのように進み、売却価格はどうやって決まるのか。地方銀行でのキャリアを経て医療機関のM&Aに携わる、株式会社forteONE代表取締役の大石将人さんに聞いた。

株式会社forteONE 代表取締役

大石 将人

新卒で地方銀行に入行し、法人営業を経て20代後半からM&A部門へ。15年の銀行勤務ののち、アップパートナーズグループの株式会社forteONEに入社。これまで100件以上のM&A相談実績を持ち、医療機関の承継支援にも力を入れている。

——M&Aの相談に来るドクターは、どんな状況の方が多いですか。

本音としては、「ずっと自分でやっていきたい」という思いがある方がほとんどです。ただ、年齢や体力的な問題で、現実を見なければならなくなってきた。そういったタイミングでご相談をいただくことが多いですね。

ほとんどの場合は、まずお子さんへの承継を考えられます。しかし、ご子息が医師であっても違う診療科目を選ばれていたり、都市部で勤務されていたりして、そのままクリニックを継ぐのが難しいケースも多いんです。そこで初めて、M&Aという流れになる方が多いです。人生に一度しかない決断ですから、相談を受ける側としても、思いを汲み取って向き合うようにしています。

——クリニックM&Aの一連の流れと、大石さんたちのようなFAの役割・動きについて教えてください。

クリニックを売りたい先生からご相談をいただいた場合、まずは私たちが買い手候補を探すところから始まります。アップパートナーズグループの顧問先にお声掛けしたり、長年培ってきたネットワークを活用したりして、一般的には50件以上の候補先に打診を重ねます。そこから、お互いに興味を持っていただいた段階でネームクリア(実名開示)をして、条件のすり合わせ、トップ面談、そして最終的なご契約へと進んでいく流れです。

早ければ数ヶ月で決まることもありますが、基本的にはお相手が見つかるまでに1年から2年ほどかかります。さらにそこから、後任の先生への引き継ぎに長ければ1年ほどかかることも珍しくありません。

先生方は日々の診療でお忙しいですから、この数年がかりの道のりを一人で進めるのは現実的ではないです。そこで、先生方になるべく負担をかけないように実務を担い、並走していくのが私たちFA(フィナンシャル・アドバイザー)の役割です。

実は、私たちの立ち位置はケースバイケースなんです。私たちが売り手と買い手、両方の間に入ってご提案することもあれば、外部の業者さんと連携して、売り手側だけのアドバイザーとして動くこともあります。

ただ、どちらの立場であっても私が一番大事にしているのは、お互いの言い分をきちんと聞いて、落とし所を見つけていくことです。片方の意向だけを優先してしまっては、絶対にマッチングはうまくいきません。

よくお伝えしているのですが、M&Aは「会社の結婚」のようなものです。お互いの人生が交差するとても大変なプロセスなんですよね。日々の診療でお忙しい先生方に代わって実務を担い、なるべく負担をかけずに伴走するのが、私たちFAの大きな役割だと思っています。

——買い手はどんな目的でクリニックを買うのでしょうか。

大きく3つのパターンがあります。1つ目は、すでに医療法人を運営していて、新しく分院を展開したいというケース。2つ目は、法人内に独立を希望している勤務医がいて、その先生のために受け皿を用意したいというケース。3つ目は、個人の勤務医の先生が開業の手段としてM&Aを選ぶケースです。

買い手の目的によって、クリニックに求められるものは変わってきます。たとえば既存の医療法人が分院展開を目的にする場合は、スタッフが引き続き働いてもらえるかどうかも評価に影響してきます。同じ福岡県内の医療法人が買うなら引き続き働いてもらいやすいですが、東京の法人が買う場合はそうはいかない。そういったコスト面の違いが、提示してくる金額にも反映されてきます。

——では、クリニックの売却価格は、どうやって決まるのでしょう。

これが一番難しいところで、正直に言うと「お互いが納得した金額が時価」なんです。親族内承継であれば、税法上で計算方法が決まっているのですが、M&Aの場合はそこまで明確には決まっていません。なので、その落としどころを見つけるのにいつも苦労しています。一般的には「純資産に利益の数年年分を見る」といった手法が多いのですが、実際には計算手法がいくつかあって、それを使い分けながら落としどころを見つけていきます。ただ、それもあくまで目安で、買い手がどれだけ価値を感じてくれるかで評価は大きく変わるのが実情です。

同じクリニックでも、ある買い手は1億円と言い、別のところは5,000万円、また別のところは1億5,000万円と言う。相手の目的や経営状況によって、まったく違う評価になるんです。ですから、私たちの方から「価格はこうですよ」と最初から決めるよりは、「一旦動いてみて、自分たちの評価がどうなるか見てみませんか?」という提案を結構していることが多いです。

ちなみに個人のクリニックと医療法人の違いでいうと、基本的な考え方は同じですが、医療法人の方が価格が高くつきやすい傾向にあります。医療法人の法人格が欲しいという方も結構いらっしゃいますし、個人の場合はスキーム的に事業譲渡という選択肢しか取れませんが、医療法人だと退職金をお渡しすることもできるので、スキームの幅が広がります。

——売却にあたり価値を上げるために、今からできる準備はありますか。

意外に思われるかもしれませんが、先生個人への依存度が低い方が買い手は見つかりやすくなります。それは、先生がいなくなった途端にクリニックが回らなくなってしまう可能性が高いからです。

そこで一番重要なのは「引き継ぎ期間」だと思っています。譲渡後すぐに引退したいとなるとかなりハードルが上がるのですが、2年、3年かけてきちんと引き継ぎをしますよということであれば、相手の方も許容できるのでうまくいく可能性が高くなると思います。実際に昨年対応した案件でも、個人の開業希望の先生が1年間くらい非常勤の医師として並行して働き、その後に継いでいただいたというケースがありました。

税務面の整備も重要で、医療法人の場合は、売却時に退職金という形で受け取っていただくことが多いのですが、その金額の算定基礎になるのが毎月の役員報酬です。早めに報酬水準を整えておくことで、最終的な手取りが変わってきます。5年以上前から準備を進めてきたお客さまの中には、役員報酬の調整やグループの整理をきちんと進めた結果、良い形で売却につながったケースもあります。そこは我々が税理士法人グループだからこそ、サポートできるところかなと思っています。

——逆に、売却がうまくいかなかったケースはどんな時でしょうか。

売り手側が経済的なメリットを求めすぎて、なかなか相手に理解してもらえない時でしょうか。

少し矛盾した話に聞こえるかもしれませんが、実は価格を上げれば上げるほど買い手は見つかりにくくなります。買い手からすると、投資した後に何年で回収できるのかという話になる。医療法人は配当を出せませんから、投資の回収にかなり時間がかかるんです。だからこそ、ある程度価格を現実的なラインに抑えてあげないと、相手が見つからないという状況になってしまうんですね。

売却価格を上げることと買い手を見つけることは、時にトレードオフになるので、そのバランスをどう取るかが私たちの腕の見せどころでもあります。

——クリニックM&Aのタイミング、いつから動くのが正解?

理想を言うと、少なくとも引退を考える2年前や3年前くらいから動き始めるのがいいのかなと思っています。いつも私がお伝えするのは、「まず、きちんとゴールを決めましょう」ということです。例えば、65歳で完全に引退したいというお考えがあるなら、そこから逆算して60歳、61歳くらいから動くといった形ですね。

というのも、M&Aは相手を見つけるのに1年や2年は平気でかかります。そこから引き継ぎで1年、長ければ2年とかかかることがよくありますので、逆算して進めていくことが必要だと思います。ただ、早ければ3ヶ月とか半年で見つかる可能性もゼロではないので、動き出したらある程度の覚悟を持って進めていただく必要はあるかなと思います。とはいえ早く見つかるのは非常に稀なケースでもあって、ほとんどは「タイミング」なんですよね。

クリニックの先生は、一般企業の社長さんと比較すると現役が長い方が多いですよね。なので、ご相談される年齢が少し遅いのかなとも思っているんです。だからこそ、ゴールを見据えて早めに動き出してほしいといつも感じています。

——FAとしてお客様と接する上で、一番気をつけていることはなんですか。

一番大事なのは、お客様に納得していただきながら進めることです。

M&Aは、売り手と買い手のどちらかが「それはできない」と思った瞬間に終わってしまいます。私たちは当事者ではないので、交渉の橋渡し役に徹することが基本です。ただ、そこで大事にしているのは、私たちの都合でプロセスを進めないということです。

たとえば、先生にとって大事な判断をする場面では、私から直接お伝えするよりも、長年関与してきた税務担当者から話してもらう方が、先生の心に届くことがある。20年近く一緒にやってきた担当の税理士の言葉だから聞けるということは実際に多いんです。そのため、重要な局面においては、なるべく担当の税理士にも打ち合わせの場に同席いただくようにしています。

——最後に、承継を考え始めているドクターへ伝えたいことは?

M&Aはあくまで選択肢の一つです。相手が見つからなければ進めなければいいし、条件が合わなければやめてもいい。価格は動いてみて初めてわかる部分も多いので、まずはテーブルに乗せてみることが大事です。

一つ誤解されていることが多いのですが、売ったらすぐに辞めないといけないわけではありません。むしろ売却後もしばらく診療を続けてほしいという買い手の方が多数派です。スタッフの雇用も、急に変えてしまうと離職するリスクがあるので、基本的には同じ体制で継続することを前提に考える買い手がほとんど。そのあたりは安心していただいていいと思います。

その点からも、まずは私たちまで気軽に相談していただければと思います。

(取材/アップパートナーズグループ広報 堀 彩寧)