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2026/09/17

令和7年度の医療費増!厚労省資料から読み解く、これからの歯科医院経営

1. はじめに

令和8年9月9日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会で厚生労働省より「令和7年度医療費の動向」が報告され、令和7年度の歯科医療費は前年度比3.5%増となりました。歯科診療所数が減少する一方で、受診延日数と1日当たり医療費はともに増加しています。本稿では、この変化を歯科診療所の院長が医院経営へどう生かすかを整理します。


2. 歯科医療の市場動向

「歯科医院は減少しており、歯科業界の将来は厳しいのではないか」そのような声を耳にすることがあります。
しかし、厚生労働省が公表した令和7年度 医療費の動向を見ると、歯科医療の市場が単純に縮小しているわけではないことが分かります。

令和7年度の歯科医療費は3.5兆円となり、前年度から3.5%増加しました。受診延日数と1日当たり医療費も、ともにプラスとなっています。
一方、歯科診療所数は減少傾向にあります。医院数が減るなかでも歯科医療費は伸びているという、歯科医院経営にとって重要な変化が起きています。
今回は、この統計から医科・歯科の院長が読み取るべきポイントと、中長期の経営にどのように生かすべきかを解説します。

概算医療費とは:医療機関から提出されたレセプトを基に、医療保険・公費負担医療分を集計したものです。労災や全額自費診療などは含まず、国民医療費の約98%に相当します。


3. 歯科の医療費と受診日数と1日当たり医療費

令和7年度の診療種類別の対前年度伸び率は、次のとおりです。

区分 医療費 受診延日数 1日当たり医療費
医療全体 +2.6% ▲0.7% +3.3%
医科入院 +2.3% ▲0.5% +2.8%
医科入院外 +1.6% ▲1.6% +3.2%
歯科 +3.5% +0.4% +3.2%
調剤 +3.9% ▲1.1% +5.0%



注目すべき点は、受診延日数が増加したのは歯科だけであることです。
医科入院外では受診延日数が1.6%減少していますが、歯科は0.4%増加しています。さらに、1日当たり医療費も3.2%増加しました。
歯科医療費の伸びは、受診延日数は微増ですが、1日当たり医療費の伸びが大きく、医療費を押し上げていました。

歯科診療所数が減少する一方、歯科診療所の医療費は伸びています。保険制度の変化を診療へ適切に反映できている医院と、従来型の診療を続ける医院との間で、業績差が広がっていると見なすのが妥当です。


4. 医科では感染症や保険制度の変更が診療実績に直結


引用:中医協 令和7年度医療費の動向~概算医療費の集計結果~

医科診療所のデータを見ると、診療科によって医療費の動きが大きく異なります。
小児科や耳鼻咽喉科は、新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症の流行状況による影響を受けやすく、受診日数や医療費の伸び率が年度ごとに大きく変動しています。
一方、産婦人科では、令和4年度から不妊治療が保険適用となった影響により、1日当たり医療費が大きく伸びています。

このことから、医院の業績は院内の努力だけで決まるものではなく、疾病構造、人口動態、感染症の流行、保険制度の変更と密接に関係していることが分かります。
医科・歯科を問わず、院長には自院の月次業績だけでなく、自院が属する診療科全体の動向と制度改定を併せて確認する視点が求められます。


5. 歯科医療費を押し上げている1日当たり医療費

歯科医療費の推移を令和元年度=100として見ると、令和7年度は次のようになっています。

項目 令和7年度の指数
歯科医療費 116.4
受診延日数 96.5
1日当たり医療費 120.5



令和元年度から令和7年度までの平均伸び率では、歯科医療費が年平均2.6%増加した一方、受診延日数は年平均0.6%減少しています。それでも歯科医療費が伸びた主な要因は、1日当たり医療費が年平均3.2%増加したことです。
診療内容別に見ると、令和7年度の歯科医療費の伸びに対して、処置が1.2%、医学管理が0.9%、歯冠修復及び欠損補綴と検査・病理診断がそれぞれ0.5%のプラスの影響を与えています。
これは、患者数や来院回数を増やすことだけが歯科経営の成長策ではないことを示しています。

必要な検査、医学管理、処置などを適切に実施し、診療録や施設基準を整備したうえで正しく算定することが、患者さんに提供する医療の質と医院経営の安定を両立させるポイントになります。

なお、1日当たり医療費の増加が、そのまま医院の利益増加を意味するわけではありません。人件費や材料費、設備費なども上昇しているため、収入と同時に利益率や生産性を確認する必要があります。


6. 歯科診療所数の減少を悲観材料だけで捉えない

厚生労働省の医療施設動態調査でも、歯科診療所数の減少が確認されています。令和7年12月だけを見ても、前月から62施設減少しました。
後継者不足や院長の高齢化などにより、今後も閉院が増える地域はあると考えられます。一方で、地域に必要な歯科医療の需要がなくなったわけではありません。

世代交代が進む地域では、閉院した医院の患者さんを受け入れ、予防・重症化予防、医学管理、訪問歯科診療、医科歯科連携などへ対応できる医院に、患者さんと診療機会が集まる可能性があります。
医院数の減少を歯科業界全体の衰退とだけ捉えるのではなく、自院が地域でどのような役割を引き受けるのかを考えることが重要です。


7. 年齢階級別データを中長期の診療戦略に生かす

年齢階級別の1人当たり歯科医療費は、すべての年齢層で前年度を上回りました。なかでも10歳以上20歳未満の伸びが大きく、20歳未満と85歳以上で高い伸びが確認されています。
このデータは、自院の将来の診療方針を考える際の判断材料になります。

現在小児の患者さんが多い医院では、成長に合わせて成人期まで継続受診してもらう診療体制をどのようにつくるかが課題になります。
成人患者を中心としている医院では、地域の人口構成や競合状況を踏まえ、小児歯科を拡充するのか、歯周病管理や重症化予防など成人向け医療を深めるのかを検討する必要があります。

高齢患者が多い地域では、通院できる患者さんだけでなく、将来通院が困難になった患者さんへの訪問歯科診療や、医科・介護との連携体制も重要になります。
伸びている年齢層だけを追うのではなく、次の項目を自院の患者データと照らし合わせて検討することが大切です。

・現在の患者構成は、地域の年齢構成と合っているか
・5年後、10年後に増える患者層はどこか
・小児から成人、高齢期まで継続して診療できる体制があるか
・医学管理、予防・重症化予防、訪問診療に必要な人材を確保できているか
・設備投資や採用計画を、将来の診療方針と結び付けているか


8. 保険制度が求める医療を地域で実践する

歯科診療所数は減少傾向にありますが、歯科医療費、受診延日数、1日当たり医療費はいずれも増加しています。
特に、1日当たり医療費の伸びが歯科医療費全体を押し上げています。今後は患者数だけを追う経営ではなく、患者さんに必要な医療を適切に提供し、保険制度上の評価へ正しく結び付けることが一層重要になります。

国が健康寿命の延伸や重症化予防のために歯科へ期待している役割を果たすことは、患者さんの健康と医院経営の安定につながります。その安定があってこそ、人材の雇用や育成、安全な医療のための設備投資を継続し、地域医療を支えることができます。
現在業績が安定している医院であっても、患者さんの年齢構成や地域の将来人口を確認し、今後どの患者層へ、どのような医療を提供するのかを早めに検討しておくことが賢明です。

歯科医療に求められる役割は、決して小さくありません。制度と地域の変化を正しく読み取り、必要な診療を一つずつ形にしていく医院には、これからも大きな可能性があります。歯科医療は、人々の食べる力、生きる力、そして地域の健康を支える医療です。変化を前向きに捉え、次の時代の歯科医療をともにつくっていきましょう。


出典
中央社会保険医療協議会 総会 第656回
厚生労働省 令和7年度 医療費の動向
厚生労働省 医療施設動態調査 令和7年12月末概数

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