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2026/07/30

2040年、医科と歯科の境界線が消える!? 専門家が語る歯科医療の未来

1. はじめに

令和8年7月15日、厚生労働省の「第13回 歯科医療提供体制等に関する検討会」が開催され、前日にとりまとめられた「歯科医師の適切な配置等に関するワーキンググループ報告書」と、病院歯科の機能に関する資料が示されました。2040年に向けた歯科医師の需給推計と、病院歯科を大幅に拡充する方向性が示されており、歯科クリニックの経営にも中長期的に大きく関わる内容です。

一見、行政の話と思いがちですが、地域で日々患者さんと向き合うクリニックの先生方にとって、無視できない変化の予兆が含まれています。今回は、病院・クリニック経営の専門家である大川さんと、歯科の専門家である大石さんに、この資料を読んでの率直な見解をうかがいました。国の方針を出発点に、「これから歯科はどう変わるのか」「生き残るクリニックはどんな診療所か」「医科と歯科の関係はどこへ向かうのか」——お二人の専門家としての目線から、2040年の医療の姿を読み解いていただきます。

なお、以下の内容はお二人の専門的知見に基づく予測・私見であることをあらかじめお断りしておきます。

2. プロフィール

大川 小百合
大川 小百合
税理士法人アップパートナーズ シニアマネジャー/日本医業経営コンサルタント。会計事務所・病院の医事課での勤務を経て、2003年に入社。これまで数多くの病院・クリニックの経営に携わり、医療現場を知る実務家として、経営面からサポートしている。
大石 慎一郎
大石 慎一郎
アップパートナーズグループ株式会社SOTコンサルティング プリンシパル歯科コンサルタント/レセプト管理士。歯科保険請求分野に26年以上従事し、現在は税理士法人グループの強みを活かし、診療報酬の裏付けと「利益が残る診療」の両面から経営改善コンサルティングを実施。

3. 「第13回 歯科医療提供体制等に関する検討会」の概要

まず、今回の厚労省の検討会で示された主なポイントを整理します。

① 歯科医師の供給は稼働ベースで緩やかに減少

令和4年時点の歯科医師総数は105,267人。実人数ベースでは2040年に約133,500人とほぼ横ばいですが、高齢化や就業率を加味した稼働ベースでは、2025年の約110,200人から2040年には約99,400人へと緩やかに減少すると推計されています。

② 需要と供給はほぼ拮抗する見通し

業務効率化が進んだ場合の需要推計は約85,900〜98,000人とされており、2040年時点では「供給が需要をやや上回る」との結論です。ただし、これはあくまで現状の受療状況や提供体制が続くと仮定した推計であり、今後の見直しが予定されています。

③ 病院歯科を大幅に拡充する方向性

現在約1,800施設・従事歯科医師約11,600人の病院歯科を、将来的に4,465施設・約17,000人へ拡充する構想が示されました。地域の歯科診療所の後方支援を担う「地域を支援する病院歯科」を、現在の約900施設(人口約14万人に1カ所)から約2,260施設(人口5万人に1カ所)へ、回復期・慢性期病院の病院歯科を約150施設から約910施設へ増やす構想があります。

④ 歯科医師の偏在が深刻

今回新たに、医科の「外来医師偏在指標」を参考にした「診療所歯科医師偏在指標」が算出されました。都道府県別の偏在指標では、東京都100.6に対して島根県45.3、青森県45.5と約2.2倍の差があります。二次医療圏別では最大約9.5倍もの差があり、地域によって歯科医療へのアクセスに大きな格差があることが示されました。また、歯科医師の高齢化が進む地域では、閉院に伴い近い将来、歯科医療の提供状況が大きく変化しうる点にも言及されています。

4. 専門家対談 「歯科はこれからどう変わるのか」

歯科の未来は、実は明るい

大川:この資料を最初に見た時に、正直に言うと歯科の方が今後は生き残りやすいんじゃないかと思ったんですよね。医科は開業自体がどんどんやりづらくなっていますし、診療報酬も厳しい方向に動いている。でも歯科は今回の資料を見てわかるように、国が明確に後押しを始めている。医科と歯科って、方向性が真逆に動いているように見えるくらいです。

大石:私も同感ですね。歯科って、ずっとある意味ペンディングにされてきた分野だったんですよ。予防は医療ではないという考えと、メンテナンスをするべきだという考えの狭間で後回しにされてきた部分があった。でもここで、口腔ケアが入院患者の早期退院につながる、歯科の介入で健康寿命が延伸されるというエビデンスが積み上がってきて、国もいよいよ本気で動き始めたという感じがします。

大川:歯科医院はコンビニより多いって言われるくらい数的には飽和しているし、二極化が進んでいるのは確かです。でも今後の流れを考えると、予防という観点から歯科の需要は上がっていく。国の医療費抑制の政策でどちらかといえばしわ寄せが来るのは医科の方で、病床数の削減や診療報酬の圧縮といった流れはこれからも続くと思います。

大石:その通りですね。歯科はむしろ、これから国が力を入れていく分野だと思います。今回の病院歯科の拡充方針はその象徴で、今まで手が届いていなかった領域に、いよいよ国が本腰を入れ始めたということだと思います。

病院歯科の拡充は、クリニックの敵か味方か

大石:競合というよりも、連携の話なんですよね。もともと病院に歯科がない場合、入院患者さんの口腔ケアを地域の歯科診療所が訪問診療で担ってきたわけです。お口のケアをしっかりすることで早く退院できるというエビデンスが出ていて、病院側も歯科医院さんに訪問をお願いしたいという動きがすごく高まっています。

大川:ただ、そこに病院歯科をつくっても、院内の患者さんだけ診ていると経営が成り立たないんですよね。

大石:そうなんです。だから今、一般の歯科診療所がやっているような診療も病院歯科でできるよう、点数の整備が進んできているんです。2年前くらいから制度として動き始めました。ただ、それだけではまだ投資に見合わないという部分もあって、今回の拡充方針はその背景もあると思います。

大川:つまり、病院の中に歯科をつくって、入院患者さんの口腔管理もしながら、一般外来の患者さんも診る。それで病院歯科の経営を成り立たせながら、雇用も促進して、入院患者さんの早期退院も支援する、という流れを国が目指しているということですね。

大石:そういうことだと思います。で、そうなったときに、地域の歯科クリニックはどう関わるかというと、退院した患者さんのその後の口腔管理の受け皿として、連携していく形が増えてくると思います。競合じゃなくて、役割分担ですよね。

大川:口腔外科が今後生き残りやすくなるのかな、とも思っています。病院との連携がより重要になってくると考えると、口腔外科の専門性を持っている歯科クリニックは、病院側からも頼られる存在になっていくんじゃないかと。

生き残るクリニックのキーワードは「連携」と「全身疾患の知識」

大川:今後の鍵を握るのは「口腔外科」「重症化予防・メンテナンス」、そして「連携」だと思います。補綴(詰め物や被せ物を中心にした従来型の診療)だけでは、これからは厳しくなっていく。病院との連携を軸に、専門性を高めていくことが大切です。

大石:あと、これからは全身疾患の知識が本当に求められるようになると思います。生活習慣病や内分泌疾患など、全身の状態とお口の健康は密接につながっています。たとえば糖尿病の患者さんは歯周病が悪化しやすいし、逆に歯周病が血糖コントロールに影響することもわかっています。そういったことを理解し診療できる歯科医師が、これからの時代に求められていく。

大川:医科の先生と対等に話せるくらいの全身疾患の知識が必要になってくるということですよね。特に生活習慣病や内分泌といった領域はしっかり押さえておく必要がありますね。

大石:全身疾患の知識を持つ先生は、医科のクリニックとも連携しやすく、病院歯科でも必要とされる存在になります。そういう先生が増えることで、地域医療全体を支える力にもなっていく。国もまさにこんな歯科医師を求めている方向に動いていますから、支援も手厚くなっていくでしょう。

大川:今でも、医科と歯科の間には紹介・逆紹介の点数の仕組みがあるんですよね。患者さんを歯科に送ったら医科側に点数が入って、情報を共有し合いながら一緒に治療を進めていくという仕組みです。こういった連携の仕組みを積極的に活用していくことが、これからは差別化につながると思います。

医科と歯科の境界線はなくなる!?

大川:「医科だから」「歯科だから」という縦割りの考え方は、今後どんどん薄くなっていくと思っています。たとえば、内科クリニックに歯科の相談日が設けられるとか、診療所の中で医科と歯科が連携して診療するとか、そういう形が当たり前になってくるかもしれない。今は内科クリニックに外科の先生や皮膚科の先生が出張してくる形はありますが、歯科の先生がいるというのはほとんどないですよね。

大石:確かに! ありそうでなかったですね。

大川:でもよく考えたら、患者さんにとってはすごく便利じゃないですか。いつものクリニックで歯のことも診てもらえる。そういう「かかりつけ」の概念が、医科と歯科をまたいで広がっていくんじゃないかと思っています。アメリカではすでに総合診療科的な動きが出始めていますし、日本もそちらに向かっていくのではないかと。

大石:歯科の側から見ても、お口の状態から全身の異変をキャッチできる場所として、歯科クリニックの存在意義がどんどん広がっていくと思います。歯だけを診るのではなく、患者さんの全身を診るという発想の転換が、これからの歯科医師には求められてくると感じますね。

大川:もっと言えば、歯科医師のキャリアそのものも変わってくると思っています。これまでは「いつか開業する」というのが一つのゴールみたいになっていましたが、今後は病院歯科の勤務医として長く活躍するという道が、多くの先生が目指す先になってくる。待遇も整備されていけば、優秀な先生が病院に集まる流れが生まれてくるはずです。

大石:法人化した歯科グループに入るとか、雇われ院長として経営を任されるとか、キャリアの選択肢は確実に広がっていますよね。一人で独立開業だけがゴールじゃない時代になってきている。

大川:そうなんです。そういう意味で、これから歯科を目指す先生たちには、全身疾患の知識をしっかり身につけながら、どんな環境でも活躍できる柔軟性を持ってほしいと思います。

5. まとめ――地域の歯科クリニックが今から準備すべきこと

今回の専門家対談から見えてきた、地域の歯科クリニックが今から意識しておきたいポイントを整理します。

変化のポイント クリニックへの影響
病院歯科の拡充 競合ではなく連携の機会。訪問診療・退院後ケアの受け皿として存在感を高める
医科歯科連携の加速 紹介・逆紹介の仕組みを積極活用。医科クリニックとのタッグが差別化につながる
予防・口腔管理ニーズの増大 メンテナンスや口腔機能管理の需要が拡大。補綴中心からの脱却を
全身疾患の知識が武器に 生活習慣病・内分泌など、全身とお口のつながりを診られる歯科医師が求められる
キャリアの多様化 病院歯科・法人・雇われ院長など、開業以外の選択肢が広がる

2040年に向けて、歯科を取り巻く環境は確実に、そして大きく変わり始めています。
今回の厚労省の方針と、お二人の専門家の見立ては、おおむね同じ方向を向いています。「歯科の未来は明るい」——ただしそれは、変化に対応できたクリニックにとっての話です。今から少しずつ準備を進めていくことが、2040年に向けた最善の戦略となるでしょう。

※本記事の対談部分は、専門家による予測・私見であり、将来の医療政策や制度を確約するものではありません。

■出典
厚生労働省「第13回 歯科医療提供体制等に関する検討会」(令和8年7月15日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74658.html
資料1「歯科医師の需給推計・地域差について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001724074.pdf
資料2「病院歯科の機能等について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001724075.pdf
参考資料1「歯科医師の適切な配置等に関するワーキンググループ報告書」(令和8年7月14日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/001724076.pdf

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