院長先生のための退職金受取「9年ルール」
1. はじめに
開業医や医療法人の理事長にとって、退職金(退職手当等)の受け取り方は老後のライフプランに直結する重要な課題です。退職金は税務上、非常に有利な「退職所得」として扱われますが、複数回に分けて受け取る場合には計算が複雑になります。
特に注目すべきは、令和7年度税制改正で見直され、令和8年分以後の所得税から適用が開始された「退職所得控除額の計算における勤続期間等の重複排除特例(以下、重複排除特例)」の改正です。この改正は、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCなどの老齢給付金を一時金として受け取り、さらに法人から役員退職金を受け取る予定の院長先生にとって、手取り額を左右する重大な変更点を含んでいます。
2. 重複排除特例の改正内容
重複排除特例とは、一定期間内に複数回退職金を受け取る際、勤続年数が重複している期間の控除枠を差し引く仕組みです。
改正前の制度では、iDeCoなどの「老齢一時金」を先に受給し、その後に法人からの役員退職金を受給する場合、両者の受取間隔を「5年以上(4年超)」空ければ、重複排除の対象から外れていました。そのため、控除枠をフル活用するセオリーとして、「60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で法人から退職金を受け取る」というプランを描いていた方も多いのではないでしょうか。
しかし、今回の改正により、このセオリーが通用しなくなりました。
令和8年1月1日以後に支払を受ける老齢一時金については、その後に退職手当等(役員退職金など)の支払を受ける場合、重複排除特例の対象期間が従来の「4年内」から「9年内」へと大幅に拡大されたのです。
3. 控除額減少リスクと受取時期の注意点
つまり、iDeCoの一時金を受け取ってから役員退職金を受け取る場合、重複排除を避けて控除枠を最大限に活用するには、間隔を「10年」空けなければならなくなりました。例えば、60歳でiDeCoを受給した場合、控除が減らないようにするには法人退職金を70歳以降に受け取る必要があります。もしこれまで通り65歳で役員退職金を受け取ると、重複排除により退職所得控除額が減少し、結果として納める税金が増え、手取り額が大きく減ってしまう可能性があります。
| 制度区分 | 重複排除の対象期間(改正後) | 控除枠活用のための受取間隔 |
|---|---|---|
| iDeCo・企業型DC(確定拠出年金) | 9年内(拡大) | 10年空ける必要あり |
| 確定給付企業年金(DB) | 4年内(従来通り) | 5年空ければOK |
一方で、同じ私的年金制度である「確定給付企業年金」の一時金については、確定拠出年金の老齢一時金とは異なり、従来通りの「4年内」ルールが適用される点には留意が必要です。同じ年金制度でも法的性質や所得区分が異なるため、取扱いに相違が生じています。
4. 院長先生が講じるべき今後の対策
退職金の受け取り方は、わずかなタイミングや順番の違いで、納める税金に数百万円規模の差が出ることがあります。今回の改正により、従来通りの受給プランでは思わぬ税負担を強いられる恐れがあります。
令和8年1月1日以後に老齢一時金の受給を予定している院長先生は、受取間隔を10年空ける、あるいは法人退職金とiDeCoの受取順序を逆にするなど、ご自身のライフプランや法人の資金繰りを見据えた対策が必要です。
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